作るときの要領と同じことであった。こんな調べを経て脳の表面にもまた内部にも何等の異常がないことが分った。全く有難いものであると思った。ここまでやって貰わないと、死因なんてものは全く安心ならないものだと深く感動したことである。
 医師は、切り開いた頭部をそのままに放置して、今度はまた元のように、屍体の脇に位置を移した。これからいよいよ腹腔にかかるのだということが分った。その辺で一度大きな呼吸をしてみたくなった。
 しかし解剖医は一秒も無駄にしない。頭の皮を剥《む》いたり、鋸を引いたり、鑿を使ったりして、ずいぶん力を使ったろうと思うのに、彼はなんの疲労も顔に現さない。何の表情もない。その姿はまことに神々しいものであった。
 医師はメスを右手に持って、咽喉の下のところから、胸、腹、臍《へそ》と、身体の真中をズーッと切り下げた。メスは一度に使うのではなく、腕を一とふりしてサーッと十センチほど皮膚を切ると、またその続きをサーッと腕をふるうのであった。これをくりかえし、下腹部にまで及ぶと、そこでメスは停った。これだけみていると、メスの切れ味の並々ならぬことがよく分った。それとも人体というものは、そ
前へ 次へ
全19ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング