すがいになったような金具をもっていた。その先端は、二つに裂けているようであった。そのかすがい様のものが、溝にひっかけられた。そこで医師は力を籠めて、頭蓋骨を引張った。
 すると、帽子が脱げるときのように、お椀の形をした頭蓋が、医師の手許の方へ開いた。パカッというような音がし、それにつづいてパリパリと脳膜が剥がれる音が聞えた。
 お椀のような頭蓋骨が、下に落ちると、頭蓋腔の中から、灰白色の脳がとびだしてきた。脳というのはこんなものかと思うほど、見かけは簡単な詰らないものである。太い蚯蚓《みみず》がもつれ合っているような豊かな皺《しわ》が見え、そして縦に二つに分かれているのがよく見えた。
 医師は、頭蓋骨の中から、それを切りはなした。延髄の下の方を切ったように見えた。医師はその脳を両手の中に入れて、解剖台の上に置いた。
 それからメスが閃《ひら》めくと見る間に、脳は縦に二つに切られた。まるで豆腐を切るような楽さであった。切断面を見ると、内部には白い髄体が見えた。そこには皺はなく、ギッシリと髄体がつまっていた。
 切り放された一方の脳は、こんどは横にズタズタに切りさいなまれた。これは奴豆腐を
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