、少年は、依然として穏かに睡っているような顔をしているのである。少年の死因を親しく検べて呉れるこの警察医に、心から感謝の意を表わしているようにも見えた。――
 メスが手伝って、象牙のように白い頭蓋骨は、耳から上部に於て、全く皮膚と離れてしまった。すると医師の右手には、メスの代りに西洋鋸が握られた。
 大事に大事に、太い竹の根を切るように、その顔は頭蓋骨に鉢巻させるように溝をつけていった。ゴシゴシゴシと深刻な響が、シーンとした解剖室の中にひびき渡るのであった。助手は屍体をまた裏がえして、警察医が頭蓋骨を切りよいように手伝った。
 こうしてグルッと溝の鉢巻ができた。
 すると医師は鋸を傍に置き、その代りに小さな鑿《のみ》と金槌とを左右の手に持った。
 見ていると、その鑿は溝の上に当てられた。そして鑿のお尻を、金槌がコンコンと叩いた。助手が屍体をグルッと廻すと、医師の持つ鑿もまた溝をグルッと廻ってゆく。そしてまた屍体が上向きにされたとき、鑿の作業は一ととおり終了した。いよいよこれから、溝を入れたところから、頭蓋骨を外すらしい。
 そのとき解剖医は、屍体の頭の方に廻った。見ると手には、片方がか
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