よりも遥かに優秀な成績をあげていることは、これまた愉快なことである。
 人造光線というのは、ビルディングが発達すると共に、ますます需要が多くなるだろうと思われるが、これは大きい広間《ホール》の天井を擦《す》り硝子《ガラス》張りとして、その上に太陽のスペクトルと同じスペクトルの電灯を点じて、あたかも、その広間の上は青天井で、雲雀《ひばり》でも舞っていそうな感じが出るのである。これなどは、たしかに執務の能率をあげるものとして、ますます需要が高くなってよい。四十階のビルディングの、その何十何階かに、小さくなっておしこめられていることが、ハッキリわかるのは全く面白くないことである。錯覚でもよいから、春の和《なご》やかな陽あたりを感じ、雲雀の舞いあがる気配を感じたい。
 だが、こうした人造もの[#「もの」に傍点]は、どうも話が面白くないので、この辺でやめることとし、人造人間《ロボット》の方へ方向舵《ほうこうだ》をむけることにしよう。
     *   *
 楽屋落ちの昔咄《むかしばなし》を一つ。
 それは今から七年ほどの昔に、本誌に御馴染の延原謙《のぶはらゆずる》氏が、人造犬や人造人間を題材にした小説を発表せられた、と云うと鳥渡《ちょっと》、僕達には面白いことなのである。その小説の名は「電波嬢」というのであって、これは延原謙氏も未だに御存知ないことだろうが、僕がその小説の挿絵を画いたのである。
 いつも僕は自分で小説を書いてしまうと、あとはその小説にどんな挿絵が画いてもらえたかと、それが恋人を待っているように、待たれるのである。自分の描想《びょうそう》以上に、描かれた人物の性格などが、はっきりと出ていたりすると、その日一日は、顔の造作《ぞうさく》を崩して、自分でも恥かしいくらい、喜ぶのである。
 延原氏が、僕と同じ考えを持っていられるかどうかは知らないが、若し同じ考えをお持ちならば、僕の画いた挿絵は、すくなくとも氏を二三日|立腹《りっぷく》させて置くに充分だったろうと思い、妙な場所柄ではあるが、ここに謹《つつし》んで、お詫び申上げておく次第である。
     *   *
 さてその「電波嬢」には、ウェルズ博士というのが現れる。この博士はエッチ・ジー・ウェルズそっちのけの科学的空想家で、モートル仕掛けのセントバナド種型の犬を作りあげる。博士は、その後に、「電波嬢」一名メリー・ウ
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