ェルズなる人造人間を作るが、これが世にもまことに麗《うるわ》しい妙齢の婦人の相貌を備え、しかも機械力で二十人力の腕力があり、要所要所に六個の耳を備えて居り、時速六十|哩《マイル》の快速力で、駈け出すことができるという鬼神《きじん》のお松そっちのけの人造人間である。
 このメリー・ウェルズを助手のピーターが操縦盤と一緒に盗み出し、強盗殺人をやらせるが、その働きは実に非凡である。大きなビルディングの下に立っていると思うと、スルスルと身長が伸びて、何十階の上の高窓に手が届いたり、警官隊や、その機関銃を撃退するところは、何とも恐ろしい光景である。これは「無線電話と無線鏡」をつかってこしらえあげた人間だそうであるが、今日の言葉で申せば、「ラジオとテレヴィジョン」仕掛けなのである。その空想は、実に今日実在する人造人間の構造そのものを言いあてていられるところ、まことに驚歎すべきものである。この厄介な怖るべき電波嬢は、博士の手にその操縦盤が帰ったため、反《かえ》って博士の手によって行動することとなり、助手のピーターを逆に取押さえるところで物語は了《おわ》っている。その電波嬢は、あとで解体せられ、スプリングや電池とかわってしまったという。
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 さて、実在の人造人間は、いつ頃から世の中に現われたのであるか。その最初のは、たしかでないが、多分一千九百二十六七年らしい。産れたところは、米国と英国とであった。
 人造人間をロボットというのは、チェッコスロバキヤの劇作家が一つの小説を書いたが、その中にロボットと名付ける一人の人物が登場するが、それがあとの方になって、本当の人間ではなく、実は機械人間だということが知れる。そのロボットが、今日では人造人間の別称となったのである。
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 最初に出来た人造人間《ロボット》は、倫敦《ロンドン》の街をひょこひょこ歩いて、市民を驚かした。椅子から立ちあがったり、椅子に腰を下ろしたり、手をふったりすることが出来た。鳥渡《ちょっと》見たところの感じは、人間タンクのようでもあり、ローマ時代の甲冑《かっちゅう》姿の武人の再来のようにもみえた。決して、やさしい婦人姿のロボットなんてえのは出てこなかったのである。
 独逸《ドイツ》映画「メトロポリス」には、ブリギッテ・ヘルム扮《ふん》するところの可憐なるロボットが製造せられるが、こん
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