ふかしたり、帽子をとってお辞儀をしたり、お酒を呑んでみせたりした。
     *   *
 近代的な人造人間は、こちらから人造人間に喋ると、それに応じて、返事をしたり、または、その命令どおりに行動するのである。これは、人造人間の中に、ラジオで使うのと同じマイクロフォンが備えつけてあり、それを通じて、音声が電流となり、その電流を、ラジオの増幅器《アンプリファイヤー》と同じもので大きい電流に直し、それを選択器《セレクター》に入れて、人造人間に言われた命令が如何なる意味のものであるかを分析し、それによって、恰度《ちょうど》、自動ピアノの孔のあいたロール紙のようなものが沢山並んでいるその一つが働き出す。それには、其後の人造人間の行動のスケジュールがちゃんと記録されて居るから、機械力が適当に働いて、その定められたとおりの歩行や、運搬や、開閉やを行い、又はちょうど、トーキーのフィルムのようなものが働き出して、人造人間の口のあたりからラウドスピーカーを通じて、「ロボットの御返答」として人造人間の声をきくことも出来るのである。
 しかし、人造人間への命令や、質問の文句は、非常に簡単で、しかもある特定の文句でないと人造人間は働かないことになっている。例のテレボックスの長兄《ちょうけい》のごときは、英語で命令しても駄目であって、高音、中音、低音から成る符号のようなものを、こちらから叫んでやると、初めて働くのである。たとえば、高い音を出して、「アー、ア、アー、アー」とか言ってやれば、窓をしめるし、低音で、「アー、ア、アー、アー」というと椅子を後に引いて暴れたりする。それを間違えば、大変な間違いとなる。何しろ力が強いから、窓を開けと注文したつもりでいると、椅子を後に引かれて尻餅をつき、喧嘩にならぬ苦がわらいをすることもある。
     *   *
 其後テレボックスへの喋る音は、文句でもよいことになった。このテレボックスが出来たウェスティングハウス電気会社のイースト・ピッツバーグの研究所の門は、客が来ると自動的に開くような仕掛けになっているが、それには扉の前で“Open, sesame !”(開けごまの実)と叫ぶと自然に開く、しかし間違って「開け、けしの実」などと呶鳴っても駄目らしい。
 先年上野の松坂屋の1999年展覧会で出演したロボットは、どんなことを、どんな言葉できいても、即座に返事
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