におねだりをして来いということでありました」
「なんじゃ、わしにねだるというと、また新発明の兵器を譲れというのじゃろう。昔の因縁《いんねん》を考えると、わしとて、譲らんでもないが、しかしあのように敗けてばかりいるのでは張合《はりあ》いがない。――で、当時《とうじ》、醤の奴は、どこにいるのか。重慶《じゅうけい》か、成都《せいと》か、それとも昆明《こんめい》か」
 博士の質問は、密使油にとって、甚《はなは》だ痛かった。当時、醤主席およびその麾下《きか》百万余名は、その重慶にも成都にも、はたまた昆明にも居なかったのである。
「は、それはわが政権の機密に属する事項《じこう》でございますから、私から申上げかねます。しかし、主席はぜひ博士の御好意によって、最近御発明になったあの……」
 といいながら、密使は一応四方八方へ気を配った上で、
「……あのう、それ、人造人間戦車《じんぞうにんげんせんしゃ》の設計図をお譲《ゆず》り願ってこいと申されました。どうぞ、ぜひに……」
「あれッ。ちょっと待て。わしが極秘にしている人造人間戦車の発明を、どうして、どこで知ったか」
「それはもう、地獄耳《じごくみみ》でご
前へ 次へ
全23ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング