、彼は処女《しょじょ》の如く、ぽっと頬を染め、
「大丈夫でございますとも、丁度《ちょうど》只今、一切の準備が整《ととの》いました。仍《よ》って、夕陽を浴びて、輝かしき人造人間戦車隊の進撃を御命令ねがおうと思って、実は只今ここへ参りましたようなわけで……」
 と、油学士は、急に慎《つつ》しみの色を現して、醤主席を拝《はい》したのであった。


     5


 戦機《せんき》は熟《じゅく》した。
 全身に、妙な白い入墨《いれずみ》をした原地人兵が、手に手に、盾《たて》をひきよせ、槍《やり》を高くあげ、十重二十重《とえはたえ》の包囲陣《ほういじん》をつくって、海岸に押しよせる狂瀾怒濤《きょうらんどとう》のように、醤の陣営|目懸《めが》けて攻めよせた。
 これに対して、醤の陣営は、闃《げき》として、鎮《しず》まりかえっていた。
 ただ、かの醤の陣営の目印のような高き望楼《ぼうろう》には、翩飜《へんぽん》と大旆《おおはた》が飜《ひるがえ》っていた。
 その旆《はた》の下に、見晴らしのいい桟敷《さじき》があって、醤主席は、幕僚《ばくりょう》を後にしたがえ、口をへの字に結んでいた。
 この望楼の
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