学が武器である。科学《サイエンス》! 科学《サイエンス》! 彼等の恐怖の標的である科学を以てその心臓を突いてやれ!
僕はそこに見当をつけて、同志に指令を与えたのだ。扉《ドア》を押して帰って行く林田橋二の後姿が、人造人間《ロボット》のようにガッシリして見えた。
僕は午前九時になると、いつものように職工服に身を固め、亜細亜《アジア》製鉄所の門をくぐり、常の如く真紅《まっか》にたぎった熔鉄《ようてつ》を、インゴットの中に流しこむ仕事に従事した。焦熱《しょうねつ》地獄《じごく》のような工場の八時間は、僕のような変質者にとって、むしろ快い楽園《らくえん》であった。焼け鉄の酸《す》っぱい匂いにも、機械油の腐りかかった悪臭にも、僕は甘美《かんび》な興奮を唆《そそ》られるのであった。特務機関をつとめる僕にとっては、このカムフラージュの八時間の生活は、休憩時間として作用してくれる。
夕方の五時になると、製鉄所の門から押し出されて、隠れ家の方へ歩いて行った。一丁ほども行って、十八番館の煉瓦塀《れんがべい》について曲ろうとしたとき、いきなり僕の左腕《さわん》に、グッと重味がかかった。そしてこの頃では
前へ
次へ
全22ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング