てトロリと頬を斜《ななめ》に頤《あご》のあたりへ落ち下《さが》った。
「井東!」と林田が、また懐《なつか》しそうに僕の名を叫んだ。
「今度は所詮《しょせん》、お互に助かるまいな」
「……」僕は顔を静かにあげて微笑してみせた。
「うふふ」林田も笑った。「君はいつも自信のあるような顔をしているじゃないか。だが、この前のF鉱山事件といい、この間の松洞《しょうどう》事件といい、某大国や警視庁は、あの兇行《きょうこう》を君がやったことはよく知っているのだぜ。唯《ただ》、犯跡《はんせき》が明白にわからないのと、君が前から海龍倶楽部の一員として活躍し相当彼等のためにもなっているところから、たとえ間諜《スパイ》でも今殺すのは惜しいものだと躊躇《ちゅうちょ》しているのだよ。だが今度の暗殺事件が、ちょっとでも下手に行こうものなら、直《す》ぐ様《さま》、彼奴等《きゃつら》は、君の自由を奪ってしまうだろう。ところで、今度の大将は、中々したたかものだ。まず君は引導《いんどう》をわたされていると考えてよい。つまらない自信だが、僕も骨を曝《さら》すつもりでいるよ」
同志は大変悲観をしていた。が、悒欝《ゆううつ》で
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