男と、家令のような中国人とをのせて、静かに動き出した。僕は三十一番街の方に駈け出した。同志に会って俄《にわ》かに計画の大変更を決行しようというのである。それで元来た道の方へと引きかえした。一丁ほど走ると、カーンと靴先に音があって何か金属製の扁《ひら》ったいものを蹴とばした。探してみると、それは銀製のシガレット・ケースにすぎなかった。そのようなものを検《しら》べて居る余裕《よゆう》はないから、捨ててしまおうとは思ったが、事件のあった附近で発見したものだから、何か手懸りになるようなものが見当るかもしれないと思ったので、ポケットからシガレット・ライターを出して、その光の下に改めてみた。
「L・M!」
 果然《かぜん》、頭文字《かしらもじ》らしいL・Mの二字が、ケースの一隅《いちぐう》に刻《きざ》まれているのを発見した。L・Mとは誰であろう。尚《なお》もケースをひっくりかえしてみるうちに、遂に某大国の製品を示す浮《う》き彫《ぼり》が眼についた。
「×国大使ルディ・シューラー氏」
 シューラー大使ならば二三度会ったことがある。あの温厚な元気な大使に会って好きにならぬものはあるまい。殊《こと》に、
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