時半までを夕食の時間にあて、それが済むと一服の睡眠剤をのみ、今博士の死体が横たわっているベッドにもぐりこんで九時半まで丁度二時間というものを熟睡して、その後深夜に続く研究の精力を貯《たくわ》えるのが習慣になっているそうである。
 すると今夜も博士の夕食後の睡眠中に、何者かがこの部屋に忍びよって、人造人間の前に死の呪文《じゅもん》を唱《とな》えたに違いない。博士殺害の手段は、ようやく朧気《おぼろげ》ながらも見当がついて来た。
「さあ、誰が号令したのだろう」
 係官は鳩首《きゅうしゅ》協議した。
「この上は、関係者を全部検挙して、そのアリバイを確かめるより外ありませんネ」
 と大江山は云った。
 そのとき帆村探偵は、部屋の片隅に腰を下して、例の暗号表を幾度も熱心に読みかえしていた。


     5


 その翌日の午後、帆村探偵は雁金検事のもとへ電話をかけた。
「いやあ、昨日はどうも、いかがです、博士殺しの犯人は決まりましたか」
「ウン、決ったとまでは行かないんだが、重大なる容疑者を捕《つかま》えて、今盛んに大江山君が訊問《じんもん》している」
「それは誰ですか」
「ウララ夫人だよ」

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