ンコートの襟《えり》をしっかり掻きあわせ、サンタマリア病院の建物について曲った。
 病院の大玄関は、火葬炉の前戸《まえど》のように厳《いか》めしく静まりかえり、何処かにシャーリー・テンプルに似た顔の天使の微《かす》かな寝息が聞えてくるような気がした。道傍《みちばた》には盗んでゆかれそうな街灯がポツンと立っていて、しっぽり濡れたアスファルトの舗道に、黄色い灯影《ほかげ》を落としていた。
 そのときだった。一台の自動車が背後の方から勢よく疾走してきた。帆村は泥しぶきをかけられることを恐れて、ツと身体を病院の玄関脇によせた。
 すると自動車は、途端にスピードを落として、病院の玄関前にピタリと停った。彼は見た。自動車の中には、中腰になって、洋装の凄艶《せいえん》なマダムとも令嬢とも判別しがたい美女が乗っていた。しかしなんという真青《まっさお》な顔だ。
「うむ、なにかあったな」
 帆村はドキンとした。
 女は濃いグリーンの長いオーヴァを着ていた。車を返すと、非常に気がせくらしく、受付の呼鈴《よびりん》にとびつくようにして釦《ボタン》を押した。
「ハロー、ウララさん。いまごろどうしましたか」
 突
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