だが、今は出て五反田《こたんだ》附近のアパートに住んでいます」
「その甥の馬詰というのにもなにか嫌疑《けんぎ》を懸けることがあるのかネ」と検事はたずねた。
「彼は亡《なくな》った博士の助手をして、永くこの部屋に働いていたのです。しかしどっちかというと、彼は怠け者で、いつも博士からこっぴどく叱られていたということです。これもばあやのお峰の話なんですがネ。そして彼が博士の家を出るようになった訳は、どうもウララ夫人によこしまな恋慕《れんぼ》をしたためだという話です」
「なるほど、そいつは容疑者のうちに加えておいていいネ」
 そういっているところへ、階下から一名の警官がアタフタと上ってきた。そして一同の前にキチンと姿勢を正して披露した。
「只今、馬詰丈太郎が門前を徘徊《はいかい》して居りましたので、引捕えてございます」
「おおそれは丁度いい。早速《さっそく》その軟派の甥を調べてみようと思いますが、如何で……」
 そういう大江山の言葉を、雁金検事はすぐに同意した。


     4


 やがて博士の甥の丈太郎が、警官に護られて、階段の下から姿を現わした。彼は気障《きざ》ではあるが思いの外キチン
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