とした服装をしている瘠《や》せ型の青年だった。
 丈太郎は伯父の死体を見ると、ハラハラと泪《なみだ》を滾《こぼ》した。そして後をふりかえって係官の前にツカツカと進むより、ヒステリックな声で喚《わめ》きたてた。
「だ、誰が、この善良なる伯父を殺したのです。ああ僕が心配していた事が到頭《とうとう》事実になって現れたのです。だから僕は伯父さんの所から出てゆくのに気が進まなかったんです。さあ、早く犯人を逮捕して下さい」
 検事と課長とは、ちょっと顔を見合せた。
「オイ丈太郎。君はなかなか芝居がうまいようだが、その手に乗るようなわれわれでないぞ」
 と、大江山は一喝をくらわせた。
「なにが芝居です。そんなことを云う遑《ひま》があったら、なぜ貴方がたはもっと大局に目を濺《そそ》がないのです。貴方がたの不注意で、いま国家のために懸けがえのない人造人間研究家が殺害されたのです。国家の大なる損失です。伯父に匹敵《ひってき》する研究家が、わが国に一人でも居ると思うのですか」
 これには大江山も参ってしまった。かねがね竹田博士の身辺を保護する必要のあることを考えないではなかった。しかしいろいろな手不足のため、心配していながらも、博士の保護を実践しなかったことは確かに手落《ておち》である。
 大江山が敗色濃いのを見てとって、雁金検事が代って丈太郎にたずねた。
「すると君は、外国のスパイかなんかのことを云っているようだが、なにかそんな話を知っているのかネ」
「そんな話は、こっちで伺《うかが》いたいくらいのものですよ。しかし私だって、すこしは気がついていますよ。この向うのサンタマリア病院の内科医ジョン・マクレオなんざ、ずいぶん奇怪な行動をしているじゃありませんか。僕は向うの国の興信録をしらべてみましたが、医者としてマクレオの名なんか見当りませんよ。それにあいつの目の鋭いことはどうです。彼奴《あいつ》は物差《ものさし》こそ持っていないが、ひと目|睨《にら》めば大砲の寸法も分っちまうという目測《もくそく》の大家に違いありませんよ。あんな奴が、帝都の白昼を悠々歩いているなんざ、全く愕きますよ」
(そうか。あのジョン・マクレオという内科医が、そうなのか)と帆村は胸の中《うち》で自ら問い自ら答えた。それこそ、今夜、あの病院の玄関でウララ夫人を擁《よう》していた男に違いない。
 検事はそこでギロリと眼を光
前へ 次へ
全17ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング