もい、名探偵長になりすまして、さかんにいばってみせるのだった。大辻は、たいへんお手柄をたてたわけである。が、そのお手柄のはじまりというのは、(あっ、幽霊だ!)と、本気でがたがたふるえたことにあるのだ。臆病のお手柄なんだから、あまりいばれたものではない。帆村探偵がきいたら、笑うだろう。
 マリ子は、大辻のことばをきいて、たいへん元気づいた。でも、どうしてこんな空井戸みたいなところから、にげだすことができるだろうか。マリ子はそれを心配して、大辻にうったえた。すると大辻は、からからと笑って、
「なあに、そんな心配は無用だ」
「どうして?」
「だって、わしは、この穴の上から、ここへおっこったんだもの。だからこの穴を逆に上にのぼっていけば、必ず外に出られるわけだ。ねえ、そうでしょう」
「そうね。でも、こんな深い縦穴《たてあな》をのぼるなんて、あたしにはそんな力はないのよ」
 と、かなしげにいった。
「なあに、それも心配無用だ。わしは、穴の中へおっこちるのも上手だけれど、上へのぼるのも大得意《おおとくい》なんだよ。なぜって、わしは山国《やまぐに》の生れでね、小さいときから、山のぼりや木のぼりをやっ
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