は、なぜ急に大辻が自分を見て騒ぎたてるのかよくわからなかった。もしや気が変になったのではないかとうたがったくらいであった。正太は足が早いから、妙な腰つきで山道を匐うように逃げる大辻には、すぐに追いついた。そこで正太は、やっと懸けごえをして、大辻の背中にとびついた。
「大辻さん、なぜ僕を見て逃げるんだい」
「あっ、人殺しだあ。人造人間がわしの背中に噛みついた! わしはエフ氏にくい殺される!」
 大辻は、もう夢中になってわめきちらし、背中のうえの正太をふり落そうと、そこら中に土ほこりを立ててうしのようにあばれるのであった。“人造人間がわしの背中に噛みついた?”――という言葉が正太の耳に入ると、少年はようやく大辻のひとりで騒ぎたてているわけがわかったような気がした。大辻は正太のことを人造人間エフ氏とまちがえているのであった。無理もないことだ。さっき大辻は、目の前にあらわれた少年を正太だと思いこんで安心していたばかりに、人造人間エフ氏の拳骨《げんこつ》をくらって目をまわしたのであるから正太の顔をみて、またもや人造人間エフ氏があらわれたと思ったのであろう。
「大辻さん、しっかりしておくれよ。僕は
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