れをきいた帆村は、正太の指さしている方を見た。なるほど髭《ひげ》だらけの眼鏡をかけた老人が、なんの用事があってか、壊《こわ》れた火薬庫のあとをうろついている。
「ちょっとお待ち、正太君。あの老人にあうのは、ちょっと待って下さい」
「なぜ大木老人にあってはいけないのですか。あの老人は、僕にもマリ子にもたいへん親切だったんですよ、さっき、僕が帆村さんにくわしくお話したでしょう」
「それはわかっています。それだから、ちょっと待ってくださいと、とめたんです」といって帆村は正太の顔をじっと見て、
「ねえ正太君。私はあの老人を一番あやしいと睨《にら》んでいたのですよ。なんだってあの老人は、怪少年があらわれると、いつでもかならずそのあとに姿をあらわすのでしょうか」
「僕、大木老人はいい人だと思うがなあ。船の中でも、僕のことをたいへんかばってくれましたよ。あのとき僕は、もうすこしで船の中の牢屋《ろうや》にいれられるところだったんです。そのとき大木老人がきてくれて、僕が無罪だということをさかんにいってくれたんです。だから僕は、牢にも入らないで、船の中をずっと自由に歩きまわることができたくらいなんですよ」
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