したことはありません。ただ他の人にうつるとわるいから、あと一ヶ月ぐらい入院していなければならないのです」
そういって正太は、母親をなぐさめた。それをきいて母親はやっと顔いろを和《やわらげ》たのだった。
帆村探偵の事務所は、丸の内にあった。ウラル丸の船長からもらった紹介状を出すと、帆村はすぐ会ってくれた。
この探偵は、背が高くて、やせぎすの青年だった。茶色の眼鏡をかけ、スポーツ服を着ていた。しきりに煙草をぷかぷかふかしながら、正太の話をきいていたが、たいへん熱心にみえた。
「よくわかりました、正太さん」
と帆村探偵は、たのもしげにうなずいて、
「とにかく全力をあげて、マリ子さんの行方《ゆくえ》をさがしてみましょう。しかしですね、正太君、いまお話をきいて僕がたいへん面白く感じたことは、あなたの見た怪しい二人づれの少年少女と、昨日九段に陳列してあったソ連戦車をどろどろに熔《と》かした怪事件がありましたが、そのときあのへんをうろついていたやはり二人づれの怪少年少女があるのですが、どっちも同じ人物らしいことです。これはなかなか、手のこんだ事件のように思われますよ」
「戦車事件は、新聞でち
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