れない。一体彼は何者であろうか。


   燃える戦車


「おう、たいへんだ。戦車が燃えている。いやどろどろに熔《と》けている、おい、みんな早くこい」
「何だ。火事か。えっ、鋼鉄《こうてつ》づくりの戦車がひとりで焼けている?」
 展覧会場は、たちまち大さわぎになってしまった。警官隊がトラックでのりこんでくる。サイレンを鳴らして、消防自動車がとびこんでくる。たんへんなさわぎだ。このさわぎが始まると、二人の少年少女はいちはやく会場の外へにげだした。そしてどこかへいってしまった。
 ホースをもって、消防手がのりこんでくると、そのとけくずれた戦車をしきりにのぞきこんでいる髭《ひげ》だらけの老人紳士があった。
「うふふふ、これはすごいことになったぞ。三センチもある鉄板《てっぱん》が、ボール紙を水につけたようにとけてしまった。とてもおそろしい力だ」
「おい邪魔だ。おじいさん、あっちへどいてくれ。水がかかるよ」
「なあに、水をかけることはないよ。もう火はおさまっている。戦車がとけて、鉄の塊《かたまり》になっただけでおさまったよ。はははは」
 老紳士は、声たからかに笑って、消防士においたてられて立ち
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