だすだろうと、正太に力をつけてくれた。そこで正太は、やっとすこし元気づいて、なごりおしくも敦賀の町をあとに、東京へむかったのであった。それはウラル丸が敦賀の港について五日目のことだった。
ここで話は一日前にさかのぼる。場所は、東京九段の戦勝展覧会場の中であった。朝早くから、会場の門はひらかれていた。お昼からは、見物人でたいへん混んだが、さすがに朝のうちは、すいていた。
その朝、番人はなんにもあやしまないで、入場をさせたが、正太やウラル丸の船長や、それから敦賀警察署の警官たちに見せると、かならず「あっ」と叫ばずにはいられないようなあやしい二人づれの入場者があった。
その二人づれとは、一人は上品な少年、もう一人はその妹と見えるかわいい少女であった。いや、もっとはっきりいうと、その少年は、正太そっくりの顔をしていたし、その少女は、正太の妹のマリ子そっくりであった。二人は仲よく手をつないで、会場にならんでいる、分捕《ぶんどり》の中国兵器やソ連兵器を、ていねいに見てまわった。
「かわいい坊っちゃんにお嬢さん。こんな早くから見に来て、かんしんですね」
会場のあちこちに立っている番人が、いい
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