てたたかう決心をしたのだった。
「ねえ、マリちゃん。どう考えても、まだしんぱいすることはないよ。僕も、船員のひとに力をあわせて、ウラル丸がたすかるようにはたらいてくるから、マリちゃんはさびしいだろうけれど、その間、船室で待っておいでよね」
「まあ兄ちゃんちょっと待ってよ」
「兄ちゃんのことはいいよ。はやく船室にはいって……」
「兄ちゃん、兄ちゃん……」
 マリ子はこえをかぎりに、兄の正太をよびとめたが、正太はどんどんと甲板《かんぱん》の人ごみのなかにはしりこんで、姿は見えなくなった。
 そのとき、ウラル丸の船橋《ブリッジ》には、船長と一等運転士が顔をそばへよせて、なにごとか早口で囁きあっていた。
「船長。どっち道、もうだめですよ」
「そう弱気をだしちゃ、こまるね。しかし無電機をこわされちまったのは困ったな」
「無電技士が、しきりにSOSをうっているとき、うしろに人のけはいがしたので、ふりむいた。するととたんに頭をなぐられて、気がとおくなってしまった。そのとき、ちらりと相手の顔をみたそうですが、それが例の正太という少年そっくりの顔をしていたそうですよ」
「そうか。あの少年は、いつの間にや
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