を消せないとな」
「おい、こっちだこっちだ。こっちからも煙がでてきた。船客の荷物に火がついたぞ」
 船火事と、怪しい潜水艦!
 二つのものにせめたてられ、ウラル丸の船客も船員も、いきがとまりそうだった。正太とマリ子は、甲板にでて、潜水艦をにらんで立っていた。
「兄ちゃん。あの潜水艦は、なにをするつもりなのかしら」
「さあ、なにをするつもりかなあ――」
 正太ははっきりわからないような返事をしたが、その実こころのなかでは、この潜水艦はたぶん、ソ連の艦《ふね》であり、そして船火事をおこしてウラル丸が沈むのを見まもっているのであろうと考えていた。しかしそれをいうと、妹のマリ子がどんなにしんぱいするかもしれないとおもい、ことばをにごしたわけだった。そのとき、兄妹のうしろを、気が変になったようなこえをだしてとおる者があった。それは例の大木老人だった。
「ああ、わしはたいへんな船にのりこんだものじゃ。わしが一生かかってようやく作りあげた全財産が、焼けて灰になってしまう。たとえ灰にならなくても、その次は、あの怪潜水艦のために、水底へしずめられてしまうのじゃ。ああ、わしはもう気が変になりそうじゃ」
 
前へ 次へ
全115ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング