とを船長にいいだそうかとおもったが、彼はとうとういわないでしまった。なぜなら、そのときとつぜん船内で大さわぎがはじまったからである。
「おう、火事だ、火事だ。第六|船艙《せんそう》から、火が出たぞ。おーい、みな手を貸せ」
怪しい船火事! 船員も船客も、いいあわせたように、さっと顔いろをかえた。
そのとき、老紳士がはきだすようにいった。
「そらみろ。さっきの信号が怪しかった。船火事だけですめばいいが」
そのことばがおわるかおわらないうちに、海面にうきあがった潜水艦隊。あっというまに、ウラル丸をぐるっととりまいてしまった。
燃えるウラル丸
「あっ、潜水艦だ! おや、あれはどこの潜水艦か。日本には、あんなのはない!」
ウラル丸の甲板《かんぱん》上を、目のいろをかえた船客がさわぎたてる。船内では、船火事をはやく消さないと、船が沈むかもしれないというので、消火にかかっている船員たちの顔には、必死のいろがうかんでいる。
「おい、船底《ふなそこ》の荷物の間から、さかんに煙をふきだしているぞ。ポンプがかりに、そういってやれ。もっと力をいれてポンプをおさないと、とてもものすごい火事
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