あ入りましょう」
 そういって博士は、正太を室内にひっぱりこんだ。扉《ドア》はぱたんとしまった。


   怪しい扉《ドア》の中


 こっちは、廊下に待っているマリ子だった。すぐかえってくるという約束の正太が、十分たっても二十分たってもかえってこない。正太はどうしたろう。マリ子は、急に心細くなって、胸が早鐘のように鳴りだした。
(兄さんは、どうしたのでしょう。すぐ出てくるといったのに、まだ出てきてくださらないわ。見物人もみなかえってしまって、こうして待っているのは、あたしひとりなんですもの。ああ、なんだか心細くなって、気が変になりそうだわ)
 マリ子は、廊下をみまわした。夕闇が、廊下の隅に、暗いかげをおとしていた。奇妙な塔が窓からじっとマリ子をのぞきこんでいるようであった。
(マリ子さん、兄さんはもうどこかに行ってしまって、のこっているのは、あなたひとりだけですよ)
 奇妙な塔は、なんだかそんな風にマリ子に話しかけているような気がした。
「ああ、もういやだ。あたし、これから地下室へいってみるわ」
 マリ子は、ひとりごとをいって、廊下を走りだした。
 地下室へくだる階段は、もうすっかり
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