いうと、なんのことか分らないかもしれないが、もっとくわしくいうとこうである。イワノフ博士は、たいへんえらい科学者である。もうすっかり頭の禿げあがった老人であるが、若い学者にもまけない研究心をもっていて、ずいぶん古くから人造人間の研究にふけっている。あの寺院のあとへ引越してきたのが、今から十年前だったが、そのときは、タンクをつぎあわせたようなたいへんな恰好の機械人形の手をひいて、あの坂道をのぼっていったので、往来の人々はみな足をとどめてびっくりしたものである。その機械人形は、歩くたびにギリギリギリと歯車の音をたて、そしてときどき石油缶のような首をふり、ポストの入口のような唇のあいだから、
「うーう、みなさん。僕はロボットです。この町へ引越してきました。どうぞよろしく」
 と、ラジオのようなとほうもない大きな声で喋《しゃべ》ったものであった。そして道々いくどもおなじことを喋りちらしながら、坂道をのぼりきって、あのお寺の跡へ姿を消した。そのとき傍についていたイワノフ博士の得意そうな顔ったらなかったそうである。それからこっちへ十年の歳月がながれた。
 イワノフ博士の研究はいよいよすすみ、今では
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