、もしや人造人間がこの雑草づたいに巌のうしろへまわったのではないかと思い、草を踏んで巌の横手へまわった。すると、彼は、たいへんなものを発見した。
「あっ、誰か倒れている」
背広服を着た男が、うつむけになって倒れていた。誰かしらと思って、正太は傍《そば》へかけより、倒れている男の肩に手をかけようとして、はっと胸をつかれた。
「血だ、血だ! 死んでいる?」
洋服のズボンが血にそまっている。よく見ると、草までも、血によごれているではないか。
正太は、うしろをふりかえったが、そこにはまだ大辻の姿も見えない。やむをえず正太は、すこしおそろしかったけれど、倒れている男のうしろに手をまわして抱きおこした。男のからだには、まだ温味《あたたかみ》があった。正太が彼のからだをうごかすと、その男はかすかに呻《うな》った。
正太は思わずその男の顔をのぞきこんだ。そしてのけぞるくらいにおどろいた。
「あっ、これはたいへん。帆村探偵、どうしたんです!」
意外とも意外、人造人間の足あとが消えた巌の横にまるで死んだようになって横たわっていたのは、帆村探偵だったのである。彼は、大木老人のあとをつけて行ったはずであるのに、こんなところに倒れているとは、一体どうしたことであろうか。
「帆村さん、しっかりしてください」
正太は、あたりを警戒して、こえを忍《しの》ばせながら耳もとに口をつけて、帆村の名をよんだ。
「ううーっ、あっくるしい」帆村はやがて気がついた。
「おや、正太君か」
「ええ、そうです」
「うむ、本物の正太君じゃないか。こんな危いところへどうしてきたのか」
帆村は名探偵といわれるだけあって、正太が本物の正太であることをすぐ見破った。
「僕たちは人造人間の足あとを追いかけて、ここまでやってきたんです。帆村さん、ここは危いところなのですか」
「そうだ。あまり大きいこえを出してはいけない」と油断なくあたりを見まわして「僕は、この巌《いわお》のうえで、もうすこしで大木老人にピストルで射殺されるところだったよ。あの巌のうえから落ちて、ふしぎに一命を助かったのだ」
「えっ、大木老人もここへやってきたんですか」
「そうだとも。どうやらここは、人造人間エフ氏やイワノフ博士の秘密の隠《かく》れ家《が》らしい」
「えっ、イワノフ博士ですって」
「正太君、僕はあの大木老人が実はイワノフ博士の変装だとい
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