下するぞ!」
正太がさけんだそのとき、三つにわかれた編隊は、それぞれ宙がえりもあざやかに、機首をさかさまにしてひゅーっとまいさがる。
どこを狙っているのか? それはすぐわかった。波間に見えつかくれつしているのは、さっきにげだしたはずの怪潜水艦だ。にげると見せておいて、にげもせず、波間からすきを見て、どどん、どどんと空中へ死にものぐるいの砲撃をはじめているのだった。ずるい潜水艦だ。
そのとき急降下中のわが編隊は、つばさの下から、黒い爆弾をぽいと放りだした。爆弾は風をきって、海上めがけておちてゆく。そのあげく、どどどーん、ぐわーんという大爆発だ。海上からは、まるで大きな塔のような水柱《みずばしら》がたち、海面にはものすごい波のうねりがひろがってゆく。そのなかに、まっくろな煙がすーとたちのぼりはじめた。おやとおもうまもなく、その煙はどどんと一度に爆発して、海面は一めんの焔の海と化した。潜水艦に命中したのである。卑怯な不法砲撃を海軍機にむかってやったため、とうとうあべこべにやっつけられたのだ。そのころまた次の爆弾が海面にもぐりこんだ。あらためて、ものすごい爆発がおこった。天地はいまにもくずれそうに、ふるえるのだった。高射砲は、すっかりだまりこんでしまった。
硝煙は海面をおおって、あたりをだんだん見えなくしてゆく。天候もわるくなってきたようだ。そのうちに、飛行機のすがたも、煙霧《えんむ》のなかにとけてしまって、やがて見えなくなった。ただエンジンだけが、つづいてはげしい唸《うな》りごえをたてていたが、それもいつしかとおくになってしまった。ウラル丸の船員といわず船客といわずみんないいあわしたようにほっとため息をついて、なに一つこわれたところのない船体をふしぎそうにながめまわすのであった。
敦賀《つるが》港
そののちは、べつにかわったこともなく、ウラル丸はついにめでたく敦賀《つるが》の港に錨《いかり》をおろした。ウラル丸の検疫《けんえき》がすんだ。もうこのうえは上陸してもよいということになった。そこで桟橋《さんばし》に、横づけとなりそして出口がひらかれた。
まっさきに出口へ突進したのはひげだらけの老紳士大木であった。
「さあ、おまえたちも、わしについて、早く上陸するのじゃ。こんな縁起《えんぎ》のわるい船は、すこしでも早くおりたがいいぞ。さあ、わしについてく
前へ
次へ
全58ページ中19ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング