てたたかう決心をしたのだった。
「ねえ、マリちゃん。どう考えても、まだしんぱいすることはないよ。僕も、船員のひとに力をあわせて、ウラル丸がたすかるようにはたらいてくるから、マリちゃんはさびしいだろうけれど、その間、船室で待っておいでよね」
「まあ兄ちゃんちょっと待ってよ」
「兄ちゃんのことはいいよ。はやく船室にはいって……」
「兄ちゃん、兄ちゃん……」
 マリ子はこえをかぎりに、兄の正太をよびとめたが、正太はどんどんと甲板《かんぱん》の人ごみのなかにはしりこんで、姿は見えなくなった。
 そのとき、ウラル丸の船橋《ブリッジ》には、船長と一等運転士が顔をそばへよせて、なにごとか早口で囁きあっていた。
「船長。どっち道、もうだめですよ」
「そう弱気をだしちゃ、こまるね。しかし無電機をこわされちまったのは困ったな」
「無電技士が、しきりにSOSをうっているとき、うしろに人のけはいがしたので、ふりむいた。するととたんに頭をなぐられて、気がとおくなってしまった。そのとき、ちらりと相手の顔をみたそうですが、それが例の正太という少年そっくりの顔をしていたそうですよ」
「そうか。あの少年は、いつの間にやら、私のところから逃げだしたとおもったが、そんな早業《はやわざ》をやったか。無電機をこわしたのも、もちろん無電技士をなぐりつけた犯人と同一の人物にちがいない。――というと、正太という少年のことだが、あんなかわいい顔をしていながら、見かけによらないおそろしい奴だな」
「そうです。おそろしい奴です。そしておそろしい力をもった奴です。無電技士を気絶《きぜつ》させたばかりではなく、無電機のこわし方といったら、めちゃめちゃになっていまして、大人だってちょっと出ないくらいの力をもっているんですよ、あの正太という子供は!」


   怪少年?


 正太はそんな力持であろうか。
 船長と一等運転士とは、正太のおそろしい力に身ぶるいをしていると、そこへひょっこりと、正太少年が顔をだしたものだから、二人は、あっといって、二三歩うしろへよろめいた。
「船長さん。まだ日本の軍艦はこないんですか」
「えっ?」
「船長さん、SOSの無電はうったのですか。それともまだうたないのなら、早くうってはどうですか」
 船長と一等運転士とは、顔をみあわせた。そして二人とも心のなかで、(この少年は、なんという図々しい少年だろ
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