なし、全く意外なことだらけであった。
 一時間ばかりすると、夜が白々《しらじら》と明けていった。心も感情もない人造人間に背負《せお》われて、どんどん広野《こうや》を逃げていく私たちの恰好は、全くすさまじいものに見えた。とにかく、この勢《いきお》いで、あと一時間ばかり走らなければならないが、途中《とちゅう》、ベルギー兵かフランス兵にとがめられたとすると、人造人間にのった私たちは、化物かスパイ扱いにされて、誤解をまねくおそれがある。そんなことも、新しい心配になって、私の頭をつかれさせた。
 ニーナも、死人《しにん》のように、青ざめた顔をしている。彼女は、大きな眼をあいて、不安げに、しきりに、あたりを見まわしている。
 そのニーナが、とつぜん私をよんだ。
「ねえ、私たちの前を、へんな自動車が走って行くわよ。髯《ひげ》もじゃの紳士が、のっていて、反射鏡《はんしゃきょう》で、しきりに、こっちをみているわ」
「えっ、そんな奴が、前にいたか」
 私は、うしろばかり注意していたので、この先駆者《せんくしゃ》には、気がつかなかったのだった。なるほど、前方五百メートルのところを、たしかに、私たちと同じよう
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