「ここはね、たいへんなところなのよ」
と、ニーナは、うつくしい眼を大きくひらいて、ぐるっと、あたりをみまわし、
「ここはね、ドイツ軍に属する秘密の、地下工場なのよ」
「ええっ!」
私は、やっぱり、びっくりしてしまった。
地下工場《ちかこうじょう》の捕虜《ほりょ》
まさか私は、ドイツ軍に属する秘密の地下工場の中にいようとは、気がつかなかった。
なぜ私は、そんな工場の中に、かつぎこまれたのであろう。わからない、全くわからない謎だ。
だが、その謎は、ニーナが、といてくれた。ここは、同じくベルギーの国内であって、ベン隧道《トンネル》の中であるそうな。ベン隧道というのは、ベン山腹の下を、くりぬいていて、そこを通る電車は、国境線の内側三十マイルの線にそって走っているが、五年前に出来、あまり乗客のない郊外電車であった。ドイツは、そのベン隧道の下に、ひそかに、地下工場を作ってあったのだ。そもそも、あまり乗客のないベン鉄道を作ったのも、ドイツの国防計画の一つであったかもしれない。
そういえば、このベン隧道について、へんな噂をきいたこともあった。なんでもそれは、ベン隧道の怪談という
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