しが見つけたときは、千吉は、青い顔をして倒れているし、上衣は血まみれだし、シャツの腕からは、傷口が見えるし……」
「傷?」
私は、そのとき始めて、脈をうつたびに、左腕がずきんずきんと痛むのに気がついた。
「あっ、左腕をやられていたのか」
腕には、誰がしてくれたのか、ちゃんと繃帯《ほうたい》がまいてあった。
そのとき私は、たいへんなことを思いだした。左手でわきの下に、しっかり抱《かか》えていた例の黒い筒は、どうしたのだろう。どこへいってしまったのだろうか。
怪《あや》しい設計図
私が、きょろきょろとあたりを見廻すものだから、ニーナはそれと気がついたらしい。
「どうしたの、千吉」
「大切な品物だ。私は黒い筒《つつ》をもっていたんだが、ニーナはそれを見なかったかね」
ニーナは、にっこり笑った。
「黒い筒ならちゃんとあるわ」
「どこに?」
「千吉の寝ている藁《わら》の下にあるわ」
「えっ、ほんとうか」
私は、むりやりに起きあがった。そして藁の下に手をいれようとしたが、左腕を傷ついている私には、ちと無理だった。ニーナは、それをみると、自分の手を入れて、黒い筒を引張《ひっぱ》りだした。
「これでしょう?」
私は、うれしかった。正《まさ》しく、それは、モール博士から預かった黒い筒だった。私は、それを右手にとって、筒をよく改めてみた。ところが、私は、筒のうえに、異変のあるのを発見しておどろいた。
「あっ、開けてある。誰が、この筒を開けたのだろう」
その筒のうえに、厳重に封をしてあったのに、その封緘《ふうかん》が二つにひきさかれ、そして筒には開いたあとがついている。
私は、ニーナをにらんだ。
「ニーナ。君だね、これを開けたのは」
ニーナは、首を左右にふった。
「でも、君でなければ、誰がこれを開くのだろうか」
そういいながらも、私は、筒の中にどんなものが入っているか、それを早く見たくて、ならなかった。だから私は筒の一方を、両脚《りょうあし》の間に挟《はさ》むと、他方の端《はし》を右手にもって、引張った。
筒は、苦もなく、すぽんと音がして、開いた。私は、胸をおどらせながら、筒の中をのぞきこんだ。
すると、筒の中には、十五六枚の紙が、重ねられたまま巻いて入っていた。私は、早速《さっそく》これを引張りだして、ひろげてみた。
青写真だった。こまかく描いた、器械の設計図であった。急いで、一枚一枚、繰《くく》っていくうちに、私は、その青写真が、どんな器械をあらわしているかについて、知ることが出来た。
「おお、これは人造人間《じんぞうにんげん》の設計図だ!」
私は、おどろきのこえをあげた。
人造人間! モール博士が、人造人間の研究をしていたことを知ったのは、今が始めてであった。博士が、自分の生命をうちこんで完成した器械というのは、人造人間の発明のことであったか。
「ふうん、大したものだ」
私は、むさぼるように、十八枚からなるその設計図を、いくどもくりかえして眺《なが》め入った。じつに、巧妙をきわめた設計図である。しかも、この人造人間は、新兵器として作られてあることが、分ってきて、私は二重《にじゅう》におどろかされた。モール博士は、ベルギーの国防のために、このような大発明を完成したのであろうが、ドイツ軍のキャタピラにふみにじられた今となっては、手おくれの形となってしまったことを、私は博士のために気の毒にもおもい、またベルギー国のためにも、惜しんだのであった。
「千吉。もういいでしょう。その図面を、早くおしまいなさいな」
と、ニーナが、私にさいそくをした。
「なぜ?」
私の眼は、なおも図面のうえに、釘《くぎ》づけになったままで、ニーナにといかえした。
「おや、これはなんだ。えらいものを、みつけたぞ。ははあ、そうか」
ニーナが、図面を早くしまえといったわけが、急にはっきりしたのであった。それは、外《ほか》でもない。図面の四隅《よすみ》に、小さい穴があいているのを発見したのだ。
「わかった。誰か、この図面を、写真にとったのだ。ニーナ、誰が、そんなことをしたのだ、おしえたまえ」
ひとの知らないうちに、この貴重な図面を写真にとってしまうなんて、ひどい奴があったものである。
ニーナは、もう仕方がないという顔つきで、
「千吉、あまり大きいこえを出さない方がいいわ。一体、ここを、どこだとおもっていらっしゃるの」
私は、ニーナのことばに、あらためて、びっくりしなければならなかった。
そうだ、ここは一体、どこなのだろう。さっき、目がさめたときから、今までに見たことのない、ふしぎな場所にいるわいと、気になってはいたのだが……。
「ニーナ。ここは、一体どこかね」
私は、ニーナのへんじをきいて、びっくりしなければいいがと思った。
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