く、あの人造人間の設計図は、モール博士の研究したものであることは、たしかだ。余は、あの設計図を写真にうつして、本国政府へ報告した。その返事があって、モール博士の研究であることが、はっきりしたのだ。お前が、それを認めようが認めまいが、余等《よら》のやることに、くるいはない」
 と、大尉は、自信ありげにいって、気をひくように私の顔をみた。
 大尉は、私を験《ため》しているのだ。大尉は、私から、モール博士のことを、もっといろいろ知りたいのであろう。
「ところで、この工場では、あの十八枚の図面を基《もと》として、すでに人造人間の製造を始めているんだ。お前に、それを見せたいと思う」
 大尉は、とつぜんおどろくべきことをいいだした。

   電波操縦《でんぱそうじゅう》

 私は、どうにかして、圧倒せられまいと、自分の心を叱《しか》りつけたが、そのようにはいかなかった。フリッツ大尉の案内により、大仕掛《おおじかけ》な地下工場のまん中に立ち、呻《うな》る廻転機《かいてんき》や、響《ひび》く圧搾槌《あっさくづち》の音を聞いていると、ドイツ人のもつ科学力に魅《み》せられて、おそろしくなってくるのだ。
 私が今、見ている機械は、しきりに原型《げんけい》をうち出している。原型は、普通は、かたい鋼鉄《こうてつ》でつくるが、この地下工場では、私の知らない灰色のセメントのような妙な粉末を熔《と》かして固《かた》めるのであった。
「どうだね、セン。君の気に入るように、製造工程は進んでいるかね」
 フリッツ大尉は、私の気をひいた。
「さあ。おっしゃることが、私には、すこしも分りません」
 私は、すばらしい製造工程の進行についてのおどろきを、ひたかくしに、かくしていった。ドイツ技術なればこそである。
 夥《おびただ》しい数の原型が、どんどんつくられていく。一体、そんなにたくさんの人造人間を作ってどうするつもりなのであろう。
「おう、セン。こっちへ来たまえ。いよいよ出来あがった製品について、試験が始まる。君は人造人間の出来|具合《ぐあい》について、遠慮なく、批評をしてくれたまえ」
 フリッツ大尉は、そういって、私をエレベーターにのせて、別室へつれて行った。 それは、三階ぐらい上のところにある部屋だった。この地下工場は、どこまで大きいのであろう。
 廊下をちょっと歩いたところに、入口があった。大尉は、扉を押して開いた。そして私の背中を、うしろからついた。
 私は、全く気をのまれてしまった形だった。なぜといって、扉がひらいての瞬間から、私の眼は、室内に軍隊のように整列しているぴかぴかの人造人間のすばらしい群像に吸《す》いつけられてしまったのだ。
 なんというりっぱなモール博士の研究であろう!
 それとともに、なんという手際のいいドイツ軍の製造技術であろう!
「さあ、あの台のうえにある金属製の檻の中に入って見物しよう」
 大講堂を十個ぐらいうち貫《つらぬ》いたようなこの広い試験室の中央には、噴水塔《ふんすいとう》のようなものがあって、上は、金属棒をくみあわせた檻になっていた。そして、その檻の中には、試験官らしいドイツ人が三四人入っていて、机の形をした配電盤の前に立っている。人造人間をうごかすためには、強烈な電波を使うから、電波の侵入をふせぐこのような厳重《げんじゅう》な檻の中に入って試験をしなければならないのであった。
 フリッツ大尉と私とは、最後に、檻の中の人となって、扉を閉じた。
 檻の中から、整列している人造人間の部隊を見下ろしたところは、奇観《きかん》であった。なんだか人造人間の部隊のために、あべこべにわれわれが檻の中に閉じこめられてしまったような錯覚《さっかく》をおこした。それほど、人造人間部隊はいかめしい。
 そのとき私は、丁度向こう側に、大きな箱のようなものがおいてあるので、何だろうかと、いぶかった。
「あの箱みたいなものは、何ですか」
 と、私は、フリッツ大尉にたずねた。
「おや、お前は、勝手なときに、口をきくんだなあ。あの小屋のことが知りたいのかね。見ていれば、今にわかるよ」
 そういい捨てて、フリッツ大尉は、右手をあげた。それは、試験始めの合図《あいず》であった。一人の技師が、配電盤のうえについているスイッチを、ぱちりと入れ、そして計器の表をみながら、ハンドルをまわした。他の一人が、九千五百、一万……と、しきりに数字を読みあげる。
「右向け、右!」
 フリッツ大尉が叫ぶと、もう一人の技士が、配電盤上のタイプライターのキイのように並んだ釦《ボタン》を、ぽんぽんぽんと叩いた。とたんに、人造人間は、一せいに右へ向いた。生きている軍隊よりもあざやかに、まるで、珠算《しゅざん》のたまが、一せいに落ちるようであった。
「四列縦隊で、前へ!」
 ぽんぽんぽんと、
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