われた。あれを見ろ、行手の丘陵の上から、こっちへ向かって下りてくる」
なるほど、博士の目は早い。教会の垣根のように、整然と並んで、人造人間と思われる部隊が、例のすり足の行進で、ざくざくと、こっちへ向かってくるのであった。
博士は、車を停めると、双眼鏡《そうがんきょう》をとりだして、新手《あらて》の人造人間部隊をじっと睨《にら》んでいたが、
「おお、うしろに、ハンスがいるではないか。あいつ、ドイツ軍のまわし者だったんだな。ち、畜生!」
ハンス? 私は、双眼鏡をもっていなかったので、博士のように、ハンスの顔を、はっきり認めることが出来なかったが、しかし丘陵を駈け下ってくる人造人間部隊の一番後方に、一台の快速戦車があって、その掩蓋《えんがい》から、一人の将校が、首から上を出して、人造人間部隊を指揮しているらしいのが見えたが、多分それがハンスなのであろうと思った。
「おお、ハンス奴《め》。ナチスの旗を立てている。なに、モール博士、降服しろと信号を送っているぞ。な、なまいきな奴だ」
博士は、かんかんになって怒りだした。そして、一層《いっそう》早口《はやくち》になって、ハンスを呪いだした。
「おい、ハンス。お前は、わしの持っていたB型人造人間の設計図をつかって、その人造人間部隊を作りあげたのじゃろう。双眼鏡で見ると、お前はたいへん得意らしい顔つきだが、B型人造人間なんて、A型人造人間同様に、不完全なんだ。見ていろ。わしが、この釦《ボタン》を押せば、その瞬間に、せっかくの人造人間部隊が、ばらばらになって空中に吹きとんでしまうんだ。さあ一つ、その豪華な爆発作業を見せてやるかな」
と、遠くにいるハンスに向って、モール博士は、さんざんの憎まれ口をきいたうえ、例のスイッチを入れ、そして指先に力を入れて、B型人造人間が爆発分解する釦を、ぽッと押したのであった。
「おやッ!」
叫んだのは、モール博士だ。予期した爆発が、起らないのであった。人造人間部隊は、あいかわらず整然と隊伍《たいご》をととのえて、丘を下りて、こっちへやってくる。
モール博士は、狼狽《ろうばい》の色を、かくそうともしなかった。彼は、二度、三度……いや七度八度と、爆破の釦を押した。
だが、爆発は、いつまでたっても、起らないのであった。
“どうです、モール博士。悪いことは出来ないと、始めて知りましたか”
と、車
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