上につけてあったラジオの高声器から、とつぜんハンスのこえが、大きく聞えてきた。
“私の操縦《そうじゅう》する人造人間部隊を、いくら博士の器械で爆破しようと思っても、それはだめです。これは、博士の望んでいらるるようなB型人造人間ではないのです”
うむ――と、博士はハンスの声に対して呻《うな》りごえをあげた。
“あの図面の秘密はもうちゃんとわかってしまいましたよ。千吉のもっていったA型の図面だけでもすぐこれは不完全な人造人間が出来るし。私のもっていったB型の図面だけでも、同様に不完全な人造人間が出来る。――そうでしょう。だから、完全な人造人間をつくるにはA型とB型との両図面をどっちも二つに折って半分ずつつぎあわせたうえで、そのつぎはぎ図面によって作ればいいのです。ねえ、博士、そのとおりでしょう”
“博士。いまこの丘陵を下りつつある人造人間はその完全な人造人間部隊なんですよ。そして間もなく、博士を逮捕してしまうでしょう。もう覚悟をされたい”
ハンスが号令を下すと、人造人間部隊は、弾丸《だんがん》のように丘をかけ下って、博士を包囲してしまった。博士は、大ぜいの人造人間に、胴あげにされたまま、ハンスの前につれてこられた。
私は、あまり意外なこの場の出来ごとに、すっかり気をのまれていたが、このときようやくわれにかえって、車をおりるとニーナと共に、ハンスの前へ近づいた。
「これは一体どうしたわけかね、ハンス」
私は、聞きたくて仕方がないことを、ぶっつけて尋ねた。
「うん、君は、びっくりしたろう。しかし、わけは、簡単なんだ。このモール博士というのは、もと、われわれの祖国ドイツにいた科学者だ。博士は、ナチスのため祖国を追われて、このベルギーへ移ったが、そのとき、モール博士と同僚《どうりょう》だった私の父、すなわちヘルマン博士の秘密研究をうばって、逃げてしまったんだ。しかも私の父は、モール博士のために毒を盛られ、とつぜん心臓麻痺《しんぞうまひ》で倒れてしまったので、博士のやった悪事が、永い間、わからなかったのだ。でも、ドイツ官憲の、懸命な捜索《そうさく》から、モール博士の所在《しょざい》がわかり、私は、身分をかくして博士の門下となり、盗まれた秘密の研究を、とりかえそうと、くるしい努力をしていたのだ。君か私かのどっちかが、どうかなってしまえば、図面が半端《はんぱ》になり折角《せっ
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