うあそこまで来た。畜生、わしのものを失敬して、わしを攻めるとは、けしからんドイツ軍だ。だが、今に見ておれ」
 博士は、かずかずの呪《のろ》いのことばを、地平線のあなたに投げつけた。はるかうしろの、もうすっかり明け放れた地平線上には、いつの間に追いついたのか、三四百人の人造人間部隊が、肩を揃え、顔を並べて、大河の流れのように、こっちへ押しよせてくるのであった。
「あっ、撃った」
「えっ」
「人造人間の腕に仕掛けてある機銃《きじゅう》が、一せいにこっちに向いて、撃ちだしたぞ」
 だだだン、だだだン、だだだン。
 ものすごい銃声だ。銃弾は、ひゅーン、ひゅーンと、呻《うな》りごえをあげて、私たちのまわりにとんで来る。私は、博士にうながされて、いそいで自動車上の人となった。
「見ていろ、千吉。今あの人造人間部隊を、一時にぶっつぶしてみるから」
 博士は、しわがれたこえで叫ぶと、車上の器械のスイッチを入れて、釦《ボタン》をぽンぽンと押した。
「あれ、見よ!」
 轟然《ごうぜん》たる音が、人造人間部隊の中から、起った。私は、今までに、こんな痛快な光景をみたことがない。一瞬のうちに、人造人間部隊は、ばらばらになって、空中に飛び散ってしまったのである。その有様《ありさま》は、飛行機の空中分解と、あまりかわらなかったが、しかし、これは、何百というA型人造人間が、一せいに分解して飛び散ったのであるから、その壮観《そうかん》な光景といったら、なんといってあらわしたがいいか、見当がつかないほどだ。
 ドイツ軍が、人造人間で追撃させたことも、博士のために、無駄に終った。

   大悪人《だいあくにん》だ

「さあ、この隙《すき》に、国境まで急行しよう」
 博士は、自動車のハンドルをとった。私たちの乗った車は、空中にまい上ったA型人造人間の破片《はへん》が、まだ地上におちない先に、国境向けて、疾走《しっそう》を始めたのであった。
「向うに見えるあの丘陵《きゅうりょう》を越えれば、国境は目の下に見えるのだ。あと七八十キロ!」
 博士は、元気なこえで言った。
 私たちの自動車が、丁度丘陵の下までやって来たときに、博士はなに思ったか、
「あっ!」
 と叫んで、大急ぎで、ブレーキをかけた。
「どうしたのですか、モール博士」
 と、私は、博士の背中越《せなかご》しにこえをかけた。
「また、人造人間部隊が現
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