いるものであることは始めてしったが、そのA型人造人間の発明者であるモール博士が、それを停めたり、また走らせたりする器械をもっているのは、ふしぎなことではない。
「そんなことは、なんでもないが、ベン隧道《トンネル》の下の、ドイツ軍の秘密の地下工場で、早速《さっそく》このようなりっぱな実物《じつぶつ》をつくりあげてしまったことは、腹も立つが、なんとおどろくべき、製造力だろう」
 と、さすがの博士も、舌をまいた。
「博士はこれから、どうされるのですか」
「わしかね。わしは、やはり国境を越えて、フランスに入るつもりだ。君にあって、たいへんうれしいが、あと、ハンスのことが気がかりだが、仕方があるまい。では、君たち、わしの自動車に、一緒にのったがいい」
 博士は、車上から手招《てまね》きをした。
 ニーナは、さっきから、道傍《みちばた》に身体をなげだして、死んだようになって、疲れを休めていたが、これを聞くと、むくむくと起きあがって、博士の自動車の方へ、よろめき歩いて行った。私も、ニーナにならうより外はない。しかし、この人造人間を、このままにしておくのは、たいへん勿体《もったい》ないことだと思ったので、
「博士、この人造人間は、どうしますか」
 と、たずねた。
 博士は、車上にかがんで、受話器を耳にあてて、何かの音を聞いていたが、このとき髯《ひげ》もじゃの顔をあげ、
「この人造人間は、ここで片づけていく」
「片づけていくとは……」
「なあに、壊《こわ》していくのさ」
「そんなことが出来るのですか」
「出来るとも。わしが設計したんだもの。しかもこのA型人造人間も、ハンスの持っているB型人造人間も、じつはどっちも、不完全なんだから、こわすのは、わけなしだ」
 博士は、妙なことをいいだした。
「不完全ですって。なにが、不完全なんですか」
「そのわけは、ちょっと簡単にいえない。が、要するに、ちょっとやれば、すぐ壊《こわ》れてしまうようなものは、不完全の証拠《しょうこ》だ。わしは……」
 といいかけた博士は、そこで急にことばをきって、熱心に受話器から流れ出す音をきき始めた。
「おお、そうか。いよいよやって来たか」
「やって来た? なにがやって来たのです」
「人造人間部隊の襲来《しゅうらい》だ。おそらく、お前たちが出発してすぐその後から、ドイツ軍がくりだしたものだろう。おお、見える見える。も
前へ 次へ
全21ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング