た。
「はい、多分ベッドに寝ていることと思いました。しかしベッドはキチンとしていまして別に入った様子もありません」
「灯りは点《つ》いていたかネ」
「いいえ、点いていませんでした」
「お手伝いさんかなんかは居ないのかネ」
「一人いたのですが、前々日に親類に不幸があるというので、暇を取って宿下《やどさが》りをしていました。だから当夜は家内一人きりの筈です」
「何という名かネ。もっと詳《くわ》しく云いたまえ」
「峰花子といいます。別に特徴もありませんが、この右足湖《うそくこ》を東に渡った湖口《ここう》に親類があって、そこの従姉《いとこ》が死んだということでした」
「君は夜中に夫人の失踪に気付きながら、なぜ人を呼ばなかったのだ」
「わしは青谷技師以外の[#「以外の」は底本では「意外の」]者を頼みにしていません。それでこれを呼びたかったのですが、技師の家は湖水の南岸を一キロあまり、つまり湖口《うみぐち》なのですからたいへんです。昼間なら一台トラックがあるのですが、いつも技師が自宅まで乗って帰るので、その便もありません。それで夜が明けて出勤してくるのを待つことにしたのです。第一、わしはもう十年以
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