「一体どうしたのかネ」と署長は無遠慮な声を出した。
「こう再三失踪者を出すということについては、君の責任を問わにゃならん」
 そういわれた赤沢博士は、眼玉をギョロつかせて署長を睨《にら》み据《す》えた。
「三年来の失踪者が判らんのでは、わし達も警察の存在を疑いたくなりますよ。早く家内を探し出して下さい」
 青谷技師は、その後方で一人気をもんでいる様子だった。
 署長は「では何もかも言うのですぞ」と一喝《いっかつ》して置いて、まず工場主から夫人失踪前後の模様を聴取した。
「わしは昨夜十時頃まで工場にいました」と博士は口だけを動かした。「わしは調べものがあったから、本館二階の自室で読書をしていたのです。十時を打ったので灯を消し、本館を出て、別館へ帰りました。そこはわしと家内との住居《すまい》に充《あ》てているのです。ところが家内は私を出迎えません。わしは家内の部屋へ行ってみました。家内はそこにも見えません。いろいろ探しましたが影も形もありません。それからこっち、家内を一度も見掛けないのです。わしの知っているのは、それだけです」
「君は夫人がどうしていると思っていたのか」
 と丘署長が尋ね
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