層赤くしながら、自動車を飛ばして問題の空気工場へ駆けつけねばならなかった。それにしても七人目の犠牲者は今までとはガラリと変って、この空気工場の女王、珠江夫人だとは実に意外な出来事だった。
 丘署長は、リューマチの気味で痛い腰骨《こしぼね》を押えながら、空気工場の門をくぐった。それは何という不気味な建物だったろう。本署の台帳によってみると、この空気工場の営業品目は、液体空気、酸素ガス、ネオンガス外《ほか》数種、それに気球ということであったが、その一風変った営業品はこんな奇怪なる建物から生れるのかと思うと、変な気がした。
 正面の本館というのを入って、応接室に待っていると、そこへ二人の人物が入ってきた。
「やあ、これはどうも……」
 と、先に立った頤髭《あごひげ》のある土色の顔に部厚の近眼鏡をかけた小男が奇声でもって挨拶《あいさつ》をした。それは工場主である理学博士|赤沢金弥《あかざわきんや》と名乗る人物だった。
「私が技師の青谷二郎です。――」
 続いて後に立っていたのが、こんな風に名乗りをあげたが、これは工場主とはちがって、すこし才子走《さいしばし》っているが、容姿端麗なる青年だった。
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