ず》だった。そうすれば、今夜も亦《また》、怪談だけで済んでしまうことだったろう。全く間一髪の出来事だった。遂に彼は血のついた怪しい男を捕えた。夜が明ければ、空気工場へ自転車で行ってみよう。きっとまた誰か、今夜のうちに失踪しているに違いない。それは一体誰だろうか?
かの巡査は、だんだん、昂奮してくる自分自身を感じながら、所轄のK町警察署へ、深夜の非常電話のベルを鳴らした。
2
殺人鬼捕わる!
庄内村はひっくりかえるような騒ぎだった。中にも一番|駭《おどろ》いたのは、所轄K町署員だった。血まみれの怪漢を庄内村の交番で捕えたという報があったので、深夜を厭《いと》わず丘署長が先登《せんとう》になって係官一行が駈けつけた。これを一応調べて、とりあえず臨時の調べ室を、丁度《ちょうど》空いていた村立病院の伝染病棟へ設け(これはちょっと変な扱い方だった)怪漢をその方へ移す。そのうちに夜が明けてホッと一息ついたとき、そこへ電話が掛って来て、ゆうべ西風の妖魔が、空気工場から若き珠江夫人を奪っていったという悲報を伝えた。これは大変だというので、丘署長の一行は、徹夜をして血走った眼を一
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