ろで博士が自滅するように計画をたてたのです。ところが署長のために不意に手錠をかけられてしまったので、狼狽《ろうばい》のあまり、血型のことなど持ち出して、即座に手錠を解かせるつもりでした。永く手錠をかけられていることは貴下の大不利ですからネ」といって髭男はジロリと青谷の顔を見た。
「なぜ大不利か? 手錠をかけられていることが永いほど、純潔らしい貴下の顔形が曇ってゆくからです。これまで六回に亘って貴下が犯してきた変態殺人がそのまま露見せずに終るとは貴下も考えないでしょう。貴下は全く許すべからざる趣味の人です。貴下は神を忘れている。科学者が神を忘れたときは、いつまでも貴下のようになりやすいものです。こうしているうちにも、湖底に潜《くぐ》った潜水夫が、六人の犠牲者の遺物を捜しあてて持ってくるかも知れません。……手錠を早く外《はず》して貰いたいために、貴下は反証なんかを挙げて署長を駭《おどろ》かせたが、貴下は自らの罠にかかったのです。珠江夫人は本館内の貴下の室に隠れていました。夫人は一旦貴下の誘惑にかかりはしたものの前非を悔いて、実は博士の室へ打ち明けに出たところを、博士は幽霊だと駭いたのです。
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