そしてとうとう貴下の仕かけて置いた罠に陥ってあの最期です。僕もあのときは、もっと上等の扮装《なり》をして一行に加わっていたので、『幽霊』という言葉とかねて血型の相違についての疑問とによって、夫人の生存していることを悟りました。そして一足お先に夫人と共にこっちへ帰っていたのです。逢いたければ夫人をここへ連れてきましょうか」
一座の駭きの中に、青谷は眼を閉じた。しかし暫くするとまた頭を上げて云った。
「すると貴下は一体誰ですか」
「僕ですか」と髭男が云った。「僕はこの右足湖畔の怪を調べるために、東京から派遣されたこういう者です。犯人を捜す便宜《べんぎ》のため、署長さんに永く隠して貰っていたのです」
そういって、青谷技師の手錠の上へ一枚の名刺を置いた。それには「私立探偵|帆村荘六《ほむらそうろく》」とあった。
底本:「海野十三全集 第3巻 深夜の市長」三一書房
1988(昭和63)年6月30日第1版第1刷発行
初出:「新青年」博文館
1934(昭和9)年12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:たまどん
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