ない。博士自身が作ったものなら、遺書も書かずに死ぬというのは可笑《おか》しい。幽霊に追われたとしても、自分の作ったものなら、そこへ逃げ込むのも可笑しいし、第一ドンデン返しにならんように鍵でも懸けて置きそうなものじゃないか。だから君だけ知っていて、博士を脅《おびや》かして墜落させたものに違いない」
「署長さん、それは貴下の臆測《おくそく》ですよ」と青谷はアッサリ突き離した。「ちっとも証拠がないじゃありませんか。それに当時私は貴下の側にいました。それでいて、墜落させたり、幽霊を出したり、そんな器用なことができますものか」
「ウン、まだそんなことを云うか。……夫人殺害のことでも、君のやったことはよく判っているぞ。君はあの夜八時に帰ったということだが、それは確かとしても、工場の門は一度六時に出ているじゃないか。わしが知るまいと思ってもこれは門衛が証明している。そうしたと思ったら、忘れ物をしたというので、七時半ごろ再びトラックに乗って引返してきた。そしてまた八時ごろになって、本当に帰ってしまった。君が引返してきたときには、工場の中には自室で読書に夢中の博士と、別館には婦人が居ることだけで外に誰も
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