む》けた。その水槽からは湯気のようなものが濛々《もうもう》と立ちのぼり、その下には青い液体が湛《たた》えられ、その中に一個の人体が沈んでいるのが認められた。引き上げてみると、それは外ならぬ赤沢博士の屍体だった。全身は真白に氷結し、まるで石膏像《せっこうぞう》のようであったが、その顔には恐怖の色がアリアリと見えていた。――青谷技師は、このハンドルを廻さなければ液体空気はなおドンドンこの水槽の中へ入って行く筈だと説明した。
「これは面白いことになってきた」K新報社長は喚《わめ》きたてた。「これはテッキリ赤沢金弥が犯人じゃろうと思っていたが、赤沢は幽霊に殺されてしまったじゃないか。オイ丘署長、犯人は一体誰に決めるのだ」
丘署長は、この激しい詰問《きつもん》に遭《あ》って、顔を赤くしたり蒼くしたり、著《いちじる》しい苦悶の状を示した。しかし遂に決心の腹を極めたらしく、大きな身体をクルリと廻わすやいなや、青谷技師に躍りかかった。
「さあもう欺されんぞ。君を殺人犯の容疑者として逮捕する!」
「これは怪しからん」
青谷技師は激しく抵抗したが、署長の忠実なる部下の腕力のために蹂躪《じゅうりん》され
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