夫は受話器に耳を懸けて、ラジオのような器械の目盛盤をいじっていたが、やがてニッコリ笑うと、受話器を外して社長へ薦《すす》めた。
「これで聞えるのだナ。よオし、皆はやく部屋を出てゆけッ」
一同は足を宙に浮かせて、室を出ていった。
「さあ、これでアノ庄内村の調室の模様がすっかり判《わか》るんじゃ。犯人村尾某の供述を、警察がどんなに隠しても、わしには知れずにゃいないのじゃ。あとできっと丘先生、さぞや腰をぬかすことじゃろう」田熊社長は村尾某の監禁されている調室から秘密に電話線を引けたので、向うの話を盗聴できるというので大変機嫌がよかった。
間もなく、待ちに待った調べ室の会話が、低音ながら聞えてきた。
(どうも失礼しました)と聞きなれぬ声がした。
(いえ、なに……)といったのは、どうやら丘署長らしい。
(……そんな訳ですから……)と始めの声が伝った。
なんでも前からの話の続きらしい。(私の推理はですナ、九分どおり実証の上に立っているのですが、惜しいかな後の一分のところが解らないために、結局仮定を出でないのです。その不満足なままで申上げますと、さっきも説明しましたとおり、犯人はその夜強い西風
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