が吹くということを確めた上で、かの粉砕した屍体を携《たずさ》えて、気球の一つに乗ったのです。ロープを解くと気球はズンズン上昇します。風が真西から吹いていますから、ごらんなさいこの右足湖の中心線の上に気球は出ます)
 田熊社長は、右足湖の位置の話がでたので周章《あわ》てた。見廻すと、社長室の壁に、右足湖を含むこの辺一帯の購読者分布地図が貼ってあったので、彼は盗聴器一式を両手で抱えて壁際へ移動した。
(……この右足湖の縦の中心線が、正しく東西に走っていることからして、気球を湖水の真中に掲げるには、西風の吹く日を選ぶより外に仕方がなかったのです。さてそれから、程よいところで、彼の犯人は灰のようになった人体の粉末を、気球の上から湖上に向って撒いたのです。西風にしたがって、この人間灰は水面に落ちますが、今申したように気球は中心線上にいるので、灰が多少南北に拡がっても、また東に流れても、うまく湖面の中に落ち、陸地には落ちないのです。
 悉《ことごと》くが水中に落ちてしまえば、いずれこれは魚腹の中に葬られることでしょう。そうすれば彼の屍体は完全に抹消されたことになります。なんと素晴らしい屍体処分法で
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