云ってK町の測候所を呼び出した。
「ああ、こっちはK署ですが。あのウ、右足湖を中心とする一帯の風速と風向きとを伺いたいのですが、昨夕から今朝にかけてです。……なるほど、……なるほど」としきりに感心していたが「そうですか、昨夜九時半ごろまでは西風、そこで風向きが一変して南西風に変った。ああそうですか」
署長はまた何やら手帖の中に丹念に書こんだ。それから立ち上ると側の主任に自動車を命じた。
「わしは一寸庄内まで行って、村尾某に会って、それから都合によって、空気工場へ廻るぞ」といって出かけた。
後で署員たちは、あの老衰署長が、こんどに限って、どうしてあのように威勢がよかったり、味な調べ方をやるのか不思議がった。
4
気短の田熊社長は、彼の社長室の床をドンドン踏み鳴らしていた。彼の脚のすぐそばには、菜葉服《なっばふく》の工夫が三人ほど、社長の足が飛んでくるのをヒヤヒヤ気にしながら、しきりとなにか針金を床下から引張りだして接ぎ合わせていた。電話工事をやっているらしかった。
「オイ何時まで懸《かか》るのだ」
「もう直ぐです……」
丁度いい塩梅に、そのとき工事が完成した。工
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