K新報社長の田熊氏が嘲笑《あざわら》っていた。彼は署長の手帖の中身をスッカリ藁半紙《わらばんし》に書き写してしまってから、激しい地声《じごえ》でまくし立てた。
「手帖を展《ひろ》げるなら、こんなくだらんことを見せるのは止して、犯人の名を書いてあるところでも見せたがいいよ」
「オイ貴様、盗人《ぬすびと》みたいなやつだナ。そんな暇があるなら職務執行妨害罪というのを研究しておけよ」
 田熊は咳払いと共に向うへスタスタ歩いていった。
「どうも彼奴《きゃつ》は苦が手だ。……そこで今のうちに……」
 と署長は、周到に手帖を畳んで冥想《めいそう》していると、そこへ庄内村の巡査が入って来て彼の机の前で挙手の敬礼をした。
「報告に参りました」
「ああ、君か。いや御苦労だった。あれはどうだったネ」
 その巡査は、署長の命令によって、今朝から右足湖畔《うそくこはん》をめぐって捜索して来た者だった。
「御命令によりまして、第一に空気工場へ参りました。午前八時でしたが、気球は地面に四基だけ結んでありました」
「四個?」署長は手帖を拡げて首をかしげた。
「陳述によると、懐中電灯ニヨリ三個ノ気球ヲ認メタ――とある。
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