はだんだん強くなって、船は中々進まない。半分ぐらい来たところで、真正面に空気工場の灯が見えた。元気を盛りかえして漕いでゆくうちに、風が急に変ったものと見え舟が北岸《ほくがん》に吹き寄せられた。そのとき、ちょっと気がついたのは、たいへん冷い雨が顔に振りかかったことだが、大汗かいているときなので気持ちがよかった。この雨はまもなく熄《や》んだ。それからは岸とすれすれに湖尻《うみじり》まで漕ぎつけたこと。
(五)湖尻に上ったのが十時半ごろだった。空気工場の横を通ったがなんだか辺に白いものが見えるので、懐中電灯で照らしてみると、構内に気球が三個、巨体を地上の杭《くい》に結びつけられて、風にゆらゆら動いていたこと、工場の中窓には灯がついていないようだった。
(六)それから工場を後にし、大西ヶ原を横断して、庄内村の家つづきまで来たところで、駐在所の巡査に捕えられたこと。
「……なるほど、こいつは面白い」
と署長は一人で悦《えつ》に入《い》っていた。
「なにが面白いものか」
と署長の頭の上で、頓狂《とんきょう》な声がした。駭《おどろ》いて署長がうしろを向くと、そこには彼と犬猿《けんえん》の間にある
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